触ることからはじめよう
by skyalley
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「空」でさえ訳せない


交換留学生として昨年9月に来日した maria
縁あって私の教室にも来て下さるようになった
出身地はイタリアのシシリア島
映画「god father」の舞台であるコルレオーネ
ナポリ大学で翻訳を専攻し 
俳句を題材に母国語で論文を書こうとしているところという
江戸時代の俳人で
「朝顔に釣瓶とられてもらひ水」で知られる千代女の作品を通して
イタリア人に俳句を紹介する本を著したいという情熱のかたまり

もとより私は俳句を専門的に勉強したことはないけれど
共に勉強していく過程で何かさせていただけることがあるかもしれない 
初めて会ったときから話はいつも尽きない

先日「雲井」(雲居 とも書く 雲の居るところ つまり 空)という言葉について
マリアが翻訳はいかにむずかしくおもしろいかを具体的に話してくれた

それはオットがたまたま
図書館から譲り受けてきたシシリア特集の雑誌を見ていたときのこと
どのページにもシシリアの青空が写っていた
雲一つ無い紺碧の空 空 空
日本人のように 雲に「鰯雲」だの「入道雲」だの名付けて親しむ習慣はまったくない
シシリア人にとって 雲とは空の汚点のような存在
だから空といえば雲のない抜けるような青空を想像するのが自然なのだそうだ
「空」と和伊辞書で引いて「cielo」(ちぇろ)とわかったところで
言葉の背景にある含みはわからない
そこをどうイタリア語に翻訳し 伝えていくか

大学院生のマリア 今は春休み
一日に8時間以上勉強をしているという勉強の虫 工夫の虫
コルレオーネの自然に育ったマリアが
鋭く豊かな感受性と論理性を駆使して
帰国までのあと半年の間に 著作に向かってどんな一歩を踏み出せるのか
とても興味深い

昨夜 教室での勉強が終わるとマリアは友人からの電話を取った
朝4時まで机に向かっていたというマリア
「今日はもう勉強はおしまい
 タベホ〜ダイ に行ってきま〜す」とうれしそうに去って行った

マリアのおかげで私は初めて俳句の勉強をさせていただいている

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by skyalley | 2007-02-25 14:09
それがどうした?! ではない

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いつか観たドキュメンタリーの番組を思い出した
老人介護の仕事に就いているひとが施設の利用者を連れて
大晦日 御来光への初めて遠出を企てる

準備万端を整え 同僚と共に利用者を引率
ようやく現れた初日を見たとたん
大きな思い違いをしていたことに気づいた という話だった

それまでは
「自分が」動いて 「自分たちが」働いたことで
初日の出を老人に見せることが実現する と思っていた

ところがいざ日の出の前に立たされたら
自分が動かなくても 働かなくても
おひさまはいつも昇って 自分たちをみていてくれたと知った

初日を迎えに行くことに何の疑問も抱いていなかった
けれど
新たな一日の始まりに毎日迎えに来ていてくれたのはおひさまの方だった

    菜の花や 月は東に 日は西に                

菜の花がある
月は東に昇り
日は西に沈む

この大きな自然にちいさいながら存在していることを言祝ぎ
淡々と詠った蕪村の気分が好きだ

今朝もブラインドの向こうから朝日がわたしを招いている

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by skyalley | 2007-02-23 12:02
雲にまかせて

パン職人の妹を乗せて
都内のパン屋を訪ねる半日運転手
あちらで一切れお味見 
こちらで一斤お買い上げ

ついこのあいだ
数時間前に他界した父の遺体を乗せた霊柩車を従え
病院から家まで案内するため
那須街道をたったひとりで 夜道の運転をした妹

パン屋巡りの帰り道 
暮れかけて行く雲を追いかけて
梅の羽根木公園へ

パンの香り漂う車の助手席に座って
じっと雲を見つめていた妹
「あぁ 何だか豪遊しちゃった気分」

今日は雲が妹の緊張をほぐし
父を半世紀看てきた責任感から来る頑なさに和らぎをくれた
少しずつなりとも彼女がよき均衡に近づくように

 
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by skyalley | 2007-02-22 01:32
人生はゼロからゼロへ

誕生日の前日
「また明日ね」と言い遺し
父がやんわりと旅立った

オットと娘がケーキを予約しておいてくれたが
それどころではなくなり取る物も取りあえず
孫息子を抱いて父が暮らしていた那須へ

「七七日忌の法要が済んだら誕生会の仕切り直ししなきゃね」とオット
二回り大きなケーキに注文し直して 友人にも来て頂いた
那須からやってきた父の遺骨も加わっての誕生会

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母が旅立った年齢になった

フランスの詩人 ポール・ヴァレリに
「人生とはゼロからゼロへ移ること」という言葉があることを知った

おめでとう! 
祝ったり祝われたりしているうちに
  
   は〜い  コノヨは終わり〜 愉しみましたか〜 さらばです〜
   では次の方〜

淡々としていい感じ

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by skyalley | 2007-02-21 18:15
父変幻

父がひとからさまざまに姿を変えるようになって
6週間が経った

一週間繰り上げての七七日忌
午前中は東京マラソンの走者には気の毒な本降り

法要が終わる頃に日が差した
あちこちで父を見かけた

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by skyalley | 2007-02-20 02:03
近所の異次元


手習いの前に
みぎょんと
ちあきと
近所の公園に
自転車を走らせた

お目当ては
梅林だったけれど
やはり
いつもの場所に
きもちが向いて
ふたりを導いた

日が沈むと
それまで
どちらを向いても視界に入っていた人影が
まったく途絶える
木々の骨格があらわになる
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空の路地があった
見上げた視界に
空の路地だけを入れて
じっと目を凝らしていると
突然3Dの世界が開けて
私が浮き上がっていたりする
風も出てきた

三人でいられてうれしかった

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                   あしたも空中浮遊してみますか
by skyalley | 2007-02-15 01:00 | 空の路地
 de Luxe


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こどものころ
母の鏡台にいつもあった

乾物屋の奥さんとして
母は
朝もはよから煮豆や昆布巻き作りに精を出していた
化粧などまったくしなかったから
鏡台の引き出しの中は
頂き物のコンパクト
からからに乾いた粉
先が埃を被った刷毛
そんな物しか入っていなかった
それでも
その瓶は鏡台の上にいつもあった

なんてきれいなんだろう
色も
字も
模様も
外国語なんか知らなかったけれど
de Luxeの意味をその書体が教えてくれた
こんなにすてきなものがあるんだ
世界ってすてきだな
こどものわたしに
そう思わせてくれた

その蓋に指の先を這わせて
文字や意匠の凹凸を
ていねいに
少しずつ
なぞるのが好きだった
なぞり終えると
きれいになったような気がした

今は吐くほどの化粧品が出回っている
私も化粧はしないけれど
その瓶を購めて使っている
別の会社製のさらさら液と混ぜて
ちょうどいいクリームにして使っている

今でも毎朝
すてきだなと思う
by skyalley | 2007-02-14 18:20 | 父・母
いれかわりたちかわり
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「今から行く?」
「いいわよ」
砧公園でデートした

朝の曇天の光で
木を撮ってみたかった
いつもの切り株のところで
友人のさこさんを待っている間
昨夜の雨でほどよく湿った落ち葉を踏んで
ゆっくりと歩いていた

急に足下の無数の葉が
ひとの層に見えた

この一年の間に孫息子が生まれ
父が旅立っていった
落ち葉のどれかは父
下の方に母
その下には祖母
さらに下の方には祖父も
そんなふうにして
そんなふうにして
わたしも新たに加わり
だれかれも重なり
少しずつ降り積もっていく

とてもきれいで
やわらかで
しずかで
そしてあたたかだった

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by skyalley | 2007-02-11 21:09 | ひと
いない は いる
きのう
本を読んでいたら
何の前触れなく
どこからともなく
私の髪をなでる手
頭の左側
  よしよし がんばったな ・・・


27年前の5月16日
長女を出産後
病室にいた私を
見舞いに来た父
右側にいたオットに憚りなく何度も
  よしよし ・・・

あぁ あのときの

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        今日の父はこのあたりから妹を見ているか知らん
        
by skyalley | 2007-02-10 08:58 | 父・母
格別な空の路地


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車で斎場へ向かう途中
那須街道沿いの大きな松が織りなす空の路地が
姿をさまざまに変えながら
父の遺影の硝子に映り
軽快に走って
どこまでもついてきました
膝の上の父はずっと笑っていました
by skyalley | 2007-02-09 09:44 | 空の路地