触ることからはじめよう
by skyalley
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大縄・子縄
あれは今から10年くらい前のことです
撮りためていた木の写真を
神田の額屋の老舗「文房(ぶんぽう)堂」で展示する機会を頂きました
たった一坪くらいでしたが
木を通して働きかけることになるきっかけに恵まれたという意味では
私にとって大きな一歩でした

そこへ日本画の画材を買いに立ち寄られたのが高橋睦美さんでした
たまたま目にした私の木の写真を気に入ってくださって
芳名帳に寄り添ってくるような言葉と共に住所を残してくださいました
私は展示会が終わるとすぐに未知の睦美さんにお礼状を書きました
睦美さんとはそれから何度か手紙でのやりとりをしていましたが
会ったのはそれから数年後
次に開いて頂いた木の写真展会場の日比谷公園でした

それから数年経って睦美さんから英語の勉強を と声を掛けられ
私の教室で共に学ぶようになりました

初めて睦美さんが教室にいらしたときに
彼女が使っていた大判の筆入れに私の目が飛びつきました
黒のフェルト地に大きな目玉の猫がアップリケされています
ちくちくちくちく・・・ 手縫いの針の一目一目が
軽やかな音を立てているのが聞こえました
愉しんで作っているひとの息づかいも聞こえました
「同居している姪の清香(さやか)が作ったんです」と睦美さん
清香さんをどんなにいとおしく思っているかがわかる口調でした

それからしばらく経って今度は
「清香が書の勉強をしたいと言っているので
私もいっしょに加えて欲しい」という申し出を睦美さんから頂き
嬉しいことにこんどは睦美さんと清香さんと机を囲む時間にも恵まれました

ある日 睦美さんと清香さんとの受業の折
書とフランス語の勉強に櫻井絵美さんが見えました
自己紹介の後すぐ
時間を作って手芸をしたい とかねがね希望していた絵美さんでしたので
目はさっそく睦美さんの筆入れに釘付けになりました
おとなしい清香さんに代わって睦美さんが
「清香が作ったんです」
みな猫を飼っていることもあって
筆入れの猫の話から飼い猫の話に
その間 絵美さんの目も手も筆入れを離しませんでした

次の受業の日に
「この前の清香さんの作った筆入れ ほんとにすてきでしたね」
とまず睦美さんに話す絵美さんでした
また別の日には
清香さんは絵美さんに「飼っている猫は何色ですか」と訊くなど
猫を通しての会話がいくども交わされました

睦美さん・清香さんと絵美さんとの出会いがあって2ヶ月ほど経った先週 
清香さんが「これ 絵美さんに」と言って差し出してきた物がありました
絵美さん用に密かに作っていた筆入れでした
翌日勉強に見えることになっていた絵美さんを思うと
私が贈られたかのようにわくわくして翌日を待ちました

絵美さんが見えました
筆ペンでの清書を終えてほっとしている絵美さんに
「目をつぶって」と言ってから彼女の後ろに立って
私は前日清香さんから預かっていた贈り物を絵美さんの両手に載せました
目を開いた絵美さんは
「あっ!」と言ったきり
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「清香さんから絵美さんに って」と添えると
「私に?!」絵美さんは目をぱちくり
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糸の一針一針を指の先で触っていました
裏返してみてどこもていねいに縫っていることにまた目を細めていました
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数日後 中村智子さんが勉強に見えました
「絵美さん 猫の筆入れ喜んでいた?」と私に訊ねました
智子さんは清香さんが絵美さんへの贈り物を持ってきたときに教室にいて
本人が知らぬ間に一所懸命に愉しんで作ってくれていた贈り物を
突然もらうことになった絵美さんのことを想っていたのでしょう
「うん! 絵美さん とても喜んでいらしたよ」と応えると
智子さんも満足そうに頷きました

私が一人で跳んでいた縄跳びに
睦美さんが波長を合わせて自分の縄跳びで加わり
そこへ清香さんが
さらに絵美さんが
そしてまた智子さんが自分の縄跳びで加わって・・・
大きさは色々だけれど波長を合わせたさまざまな縄跳びの旋回が
一つの大きな縄跳びに見えてくるような
そんな想像に遊ばせてくれました

外は颱風の烈しい雨です
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by skyalley | 2006-08-07 13:18 | ひと
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