触ることからはじめよう
by skyalley
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等身大の自分を

一年ほど前に近所のアパートの空き室前に
引越のトラックが停まり作業をしていました
その晩に私が受業をしていたら
玄関に人が現れオットが応対をしました
受業を終えるとオットが「越してきた人からこれ」と言ってタオルと官製葉書を示しました
引越の挨拶にタオルと官製葉書・・・
それもそれほど近い距離というわけでもないのに
ご年輩の方だと拝察しました

私が二十歳で一人暮らしを始めた時 
アパートの一階には大家さんの老夫婦がおりました
アパートの住人が4人と伺ったので頭数分の手拭いを購めてご挨拶に行ったものです
月末には和菓子や花など何か小さな物を添えて家賃を直接持って行きました
土は地球のものなので私有をしようとも したいとも全く思っていないので
それ以来三十年余りアパート暮らしをしてきました
引越が大好きなので十指を上回る数の移動をしていることになります
その間に 同じアパートの住人を誰も知らない というのが次第に普通になってきました

近頃にしては珍しくごていねいに挨拶に見えた方に
お近づきの印にと思い
翌日妹から届いたばかりのパンを少しお届けしました
六十代のご夫婦でした
その晩 今度は奥さんが見えました
そして勉強中であったお弟子さんがいらっしゃることにも気づかないかのように
なぜ「こんなアパート暮らしをすることになってしまったか」という顛末を語られました

それまではご主人が会社を経営し
自分の土地で自分の家に暮らし
孫も含めた長男一家と何の不自由もなく暮らしていたが
会社が倒産し一家は離散
車も数台持っていたが小型車に乗ることになってしまった
宝石もずいぶん売った
生まれて初めてのアパートでの間借り
何もかもが初めてのことばかり
青天の霹靂でした・・・



三十分ばかり堰を切ったように話されました
以前はこんなではなかったということをしきりに言い訳されているようでした
同時にご自分を慰めていらっしゃるようでもありました
しかし過去の華やかな暮らしを懐かしむ思いは深そうでした

その晩を最後に
ときおりでかけていかれるご主人と
玄関近くで鮮やかな服装の奥さんをちらっとおみかけする以外
双方からの行き来はまったくありませんでした
ご夫婦はひっそりと暮らしてこられた一年であったようです

今朝 洗濯物を干していたらその奥さんの声が耳に飛び込んできました
ご友人でしょうか 女性を伴い
明るい声で語り合いながら家に入って行かれました

ようやく現在の等身大のご自分の姿を受け入れられるようになったのでしょうか

今日は五月晴れ
無事に一ヶ月検診を済ませた何の屈託もない孫息子の産着が
軽々と風に舞っています

等身大の自分を_f0085284_14565769.jpg

by skyalley | 2006-05-31 15:00
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