触ることからはじめよう
by skyalley
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一針一針(二)


知り合いの方が
「あなたのお教室ではクッションを使いますか」と
尋ねられた
幼児教育に長年尽くしてこられた先生
そして 孫息子の人生最初の恩師だ
戸惑いながら「はい」と応えると
「いつか姉が作ったクッションをお持ちします」
戸惑いながらお礼だけを述べた


数日後 先生が珍しく夜に電話を掛けてこられた
「明日の朝9時5分に千歳船橋の改札においでになれますか
 私は12分の電車に乗って そのまま仕事に行きますので
 ゆっくりお話はできませんが
 先日お話ししたクッションを持っていきたいと思います
 朝早くて済みませんが 来て頂けますか」
「はいっ 喜んで!」
私は心待ちにして休んだ


大きな袋を持って 
先生がプラットフォームからの階段を下りてこられる
大好きな満面のやわらかな笑み
亡くなったお母様の着物からお姉様が作られたというクッション
わざわざ一時停車をしてお届け下さったのに
とても恐縮されて
「本当にご無理ではないですか」と念を押された
次の電車に急ぐ先生を見送り 
しっかり包まれた袋を持って急ぎ家に帰った



すぐに開封する
現れたのは得も言われぬ淡い鼈甲色の縞柄絹
どこもかしこも手縫いでまつられ 仕上げられている
自分がいつも座る机の脇に四枚の小さな座布団を重ねた
仕事の手を休めたときに
ふ とそちらへ目をやると
一針一針の起伏に慰められる
ちく ちく ちく・・・
痛そうだけれど 温かな擬音
ちく ちく ちく・・・


一針一針(二)_f0085284_0304529.jpg

by skyalley | 2011-11-01 00:32 | ひと
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