触ることからはじめよう
by skyalley
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「潔くもらってください」 
ご近所の竹井ご夫妻をお訪ねした


10月8日 奈良で開催された「遷都1300年記念祝典」
その舞台演出に携わったオットを労おうと
ご夫妻は 是非お食事に とお誘い下さった
「大変差し出がましい申し出ですが
 式典の大成功に貢献なさった浩さんからね
 お話を聴かせて頂けるのを 楽しみにしております
 不躾な言い様ですが 
 もしおよろしければ 遠慮無くおいでくださいませね」
奥方は恐縮しいしい そう仰った


祝典のための二年間の準備期間
本番前の10日間の不眠不休に近かった日々から
オットが何とか復調し
学校の試験も終え 少しは人心地付いたところで
お言葉に甘えて 夫婦でご馳走に呼ばれた
場所は八幡山駅からすぐの料理屋「かわしまや」
http://www/kawashimaya.info/
店の主人夫婦の客あしらいを始め
料理も 盛りつけも 雰囲気も
すべて竹井ご夫妻ご贔屓とわかる店であった


翌週 小用があってお訪ねすると
会食の折に竹井氏自らが歓談の様子を撮影した写真を数葉下さった
「それにしても簡単なものだねぇ デジカメ ね」
そう言い残して 階上へ上がって行かれた
竹井氏 92歳である
私は付いて上がりたいような気がしたが
奥方は「だいじょうぶ」と目配せなさる
やがて何かを手にして降りてこられた


「う〜〜〜〜〜ん  何てカッコイイ!」
思わず奇声を発するほどの威厳ある8ミリカメラだった
とはいえ 器械音痴 ただ形からそう言うしかなかったが
氏は 「ニューヨークに駐在していた1950年頃に買ったの
BELL & HOWELL
もうフィルムがないから使うことは出来ないけれど
これでね よく撮ったのよ 家族をね・・・」
カメラを撫で回しながら 「よく撮りました」  


手に乗せて頂くと ずっしりと沈むような重さだ
両手に持ち換える
シカゴ製
文字盤もレンズ類も 革の装備も 何もかも重厚だ
小さいながら威風堂堂
心が引き締まるような存在感
このレンズは よい物しか見ていない
ご子息達の成長や 50年代のニューヨークのお召し物の奥様
花好きの氏はセントラルパークの向かいに住んでおられたと聞いた
きれいな物や すてきな一瞬しか見ていないレンズだ


慣れた手つきでフィルムケースを開けて見せて下さりながら
氏が仰った
「息子にね これどうしよう って言ったんだが
 彼は余り興味がないんだね こういう物には
 おやじ インターネットのオークションで売ってみるか
 と言うんだが 何だかね それもね・・・」


すると 氏の隣に座っておられた奥方が 
くるっとご主人の方に向き直ったかと思うと
「おとうちゃま! これ由紀子さんに貰って頂きなさい
 あなたの愛機なのだから 今は使えなくなったとしても
 あなたが大事にしていたという気持ちは
 浩さんと由紀子さんなら そのまま受け継いでくださるから
 ね そうなさったら?
 もし由紀子さんさえよかったら
 ごめんなさい 勝手にこちらだけでこんなこと決めて」
氏 間髪を入れず 「うん それはいい考えだね!」


慌てた
オットはともかくも 写真など押して撮るだけしか知らない私に
どうしろと仰るのか
「いえ! いえ!! いいえ!!! 有り得ません
 もうしばらくお手元に置いておかれてはいかがですか
 何かよい案が見つかるかも知れませんし
 活用できる方が現れるかも知れませんから」
精一杯お断りした


「いや もう決めたの
 二束三文で どこの誰だかわからない人の手に渡るのは切ない
 こんな重たっつらしの それも使えない物を押し付けられて
 あなたもお困りになるかも知れないけれど
 僕の気持ちを受け取って頂ければ 本当にありがたいの
 由紀子さん
 潔くもらってください!」


胆を決めた
「はい では潔く頂きます」 両手で押し戴いた
あらためてその重厚さを体に感じた
きちんとしていて すきがなく 威厳がある
その上に温かく 懐かしい・・・
端厳な竹井氏そのままを カメラに感じた

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その時 私の携帯電話が鳴った
鞄から取り出そうとして 余りの軽さに取り落としそうになった
その「軽薄短小」を愛用している私の前に
BELL & HOWELL は置かれた


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by skyalley | 2010-11-10 09:39 | ひと
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