触ることからはじめよう
by skyalley
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「みんなちがって」


日常のことばづかいを大切に
感じる力と考える力のつりあいを
という目標を明らかにした上で
3歳児からの「こども・ことば・ひろば」を開いてから
おかげさまで一年が経った


今では5人の子どもと毎週いっしょに日本語を学んでいる
とはいえ 3歳・4歳の生徒さんに それぞれ妹や弟 それにお母さん
つまり 1人が来る ということは 3人が来る ということである
いっぺんには目が行き届かないので
水曜と金曜日の二日間に分けて来て頂くことにした


しばらく前から
「にほんごであそぼ 絵あわせかるた」を教材に使っている
   雨降って地固まる
   一を聞いて十を知る のような諺
   さよなら三角 また来て四角
   恐れ入谷の鬼子母神 のような語呂のいい言葉
  春はあけぼの 夏はよる
  僕の前に道はない のような詩歌からの抜粋
など さまざまな言葉が
96枚・48組のかるた札に作られている


子供らは速い
すぐに憶える
口に乗せて 心地よいので尚更だ
誰かが問うた時にしか 意味を言わない
ただ復唱してもらう


ある日 子どもたちが着てきた服を話題にしていた
「あたしのは 何々が付いてるの」
「あたしのは 何々・・・」
「何にも付いてないじゃん」
キャラクターと言われる絵柄のことを言っている


またある日は筆記用具について言い合っていた
「消しゴムもあるんだよ ある?」 と隣の色鉛筆セットを見る
「これはまだ新しいけど そっちのはいっぱい折れてる」
褒めるならともかく そうでないなら 
他人の服や持ち物について
どっちがいいの悪いのと とやかく言うこたぁない と私は思う


絵あわせかるたは
一回に15組くらいを適当に選んでいるが
翌週は敢えて 金子みすずの
「みんなちがって みんないい」を新たに足した
椅子の上に3人の子どもに立ってもらってから
それぞれの服について 私が言った
「誰々は 刺繍の付いているスカートだね
 誰々は 絵が描いてあるTシャツ
 誰々は 英語が書いてあるTシャツ
 私のは縦の線と横の線がある格子縞のシャツ
 みんなちがっているけれど みんないいねぇ」


それからかるたをした
何度も復唱した
「みんなちがって みんないい」
そのうち 私が「みんな」と言いかけると
「ちがって みんないい」と被さるようにして言ってきた


それ以来 誰も
自分の服や持ち物と 他人のそれとを比べて
優劣を言うことがなくなった
それどころか
「先生のは水色のしましまできれいだね」
と言ってくれる子どもが現れた


「みんなちがって みんないい」
「みんなちがって みんないい」
繰り返し口にしていると
その言葉が 自身の思いに そして行為に為りうるのだな
と改めて言葉の力に驚かされた


   雨垂れ石を(うが)穿つ
   石の上にも三年
   亀の甲より年の功
   千里の道も一歩から
   棚から牡丹餅


これらの言葉が
かれらの人生において
10年後 30年後 50年後 80年後のある日 ある時
「なぁるほど あのことは このことを言っていたのか」
と思うときがあるのだろうか


徳談会で ピンチヒッターも含めて
二度の講演をして下さった日仏会館理事・小林善治先生は
「How are you? I'm fineなんていうのは
 いつまで憶えていたって たいした役には立たないけれど
 この頃になって(83歳) 
 子どもの頃に復唱させられた論語の一節に
 うぅん なぁるほど! と思い当たることがあるんだねぇ」
と 感心しておられた


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「みんなちがって」_f0085284_22165351.jpg



 
by skyalley | 2010-07-06 22:17 | こども・ことば・ひろば
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