触ることからはじめよう
by skyalley
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どんぐり発芽現場

日曜日の昼を挟んで約5時間
孫息子と砧公園で遊びに遊んで
帰ってくると 
電話

散歩の相棒 さこさんからだ
「あした あなた 予定は?」
 わたし いま 植物観察会から帰ってきたばっかりなんだけれど
 そこがとてもよかったのよ
 もう 春爛漫で
 あなたが草花より木が好きなのは知っているけれど
 一年に一度のことだから ぜひ見せたいの
  あ な た に 見せたいの
  あなた どう?」

どう? も何も さこさんの期待に充ち満ちた声に
わたしは 思わず即答
「うん 行くよ」
「あ〜 よかった 
 わたし いま帰ってきたばっかりなのに
 もう あした あそこへ行くのが楽しみなの
 じゃ 朝8時に改札でね
 よろしくね!」

聞いたことのない駅名を言ってきた
横浜線の片倉
さこさんは元薬剤師 
大学時代からご縁のある教授の引率で
一ヶ月に一度 植物観察会に参加している

出不精のわたしは
人と約束をすると たいてい日時や落ち合う場所を決めた直後に
「やっぱり 行かれない・・・」 と後悔する
そのひとがいやだからでも その目的がいやだからでもない
ただ自宅近所の散歩以外の外出がいやなだけ
だが さこさんの弾んだ電話口の声が
わたしをまったく後ろ向きにさせなかった

5時半に起床し
約束の時間に駅に降り ホームの階段に来ると
うなだれて降りているさこさんの後ろ姿があった
わたしは黙って 脇に並んで階段を降り始めた
気付いたさこさん すぐに私の腕を取ってこうのたもうた
 「あったし(私 : 静かに昂奮している模様)  
  もう あれからすごく後悔しちゃって
  あんなふうに一人で昂奮して
  あなた忙しいのに こんな遠くにまで連れて来ちゃって
  よかったのかしら  すごく後悔してるの」

八王子終点の横浜線の朝は意外に混んでいて
その中で人にもまれながらも
優雅に植物図鑑を読み耽りながら
とても楽しみに来たことを さこさんに伝えた
さこさんは さかんに申し訳なさそうにしていたが
目的地の片倉城址公園に着くなり
足元の草々の名を次々に挙げていった
「あら なんだったかしら 
 昨日先生に教えてもらったばっかりなのに」
とか何とか言いながら
ついさっきまで何を後悔していたやら


 
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家から1時間で 
こんなところに誘って下さって
何を後悔することがあろう

学究肌のさこさん
上溝櫻(ウワミズザクラ)の下で
図鑑を開いて 櫻の花の付き方を確認中
すぐ忘れても 好奇心がまた図鑑を開かせる
わたしは自分を見ているよう

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さこさんが突然しゃがんだ
何かの芽が出ている・・・

それは
あの殻を破り 中の実を破り
土を持ち上げて 現れたクヌギのどんぐりだった
殻をまだ被ったまま わたしたちのいる この地上に現れた

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ふたりで地に這いつくばり
「すごいわねぇ!」
「やるねぇ!」
などと感嘆の声を交わしながら
その勇姿を撮った

孫息子を保育園に迎えに行くため
帰途につくことになった
「あした来てもいいな」 そう思った
「帰りを急かせてごめんね」とさこさんに謝ると
「いいのよ わたしは昨日だって来たんだから
 あした来てもいいくらいだけれど」
と応えてくれた

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by skyalley | 2009-04-21 11:43 | 空の路地
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