skyalley:触ることからはじめよう
2006-04-23T22:24:35+09:00
skyalley
触ることからはじめよう
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触ることからはじめよう
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2001-01-01T13:29:00+09:00
2006-04-23T22:24:35+09:00
2006-04-23T13:29:58+09:00
skyalley
触ることからはじめよう
(わたしの履歴書、わたしの愉しみ、わたしの願い)
東京・世田谷区経堂町410番地で過ごした子供の頃
小さな庭だったが
祖父と父の気晴らしのおかげで
さまざまな木が所狭しと育っていた
櫻の老木
忘れられないのは櫻の老木
乾物屋だった祖父が、祝い用の櫻湯を作るため
八重で、淡く上品な色の花をつける
普現象(フゲンゾウ)という名の老桜が一本あった
幹が大きく空洞になっているところがあり
薄赤茶色の小さな小さな蟻が
忙しそうに出入りをしていた
その木の太いところに腰をかけ
本を読んでいたときに急に枝が折れて、
すわったまま枝ごと落ちたことがあった
いまでも左膝頭に真一文字の傷がある
写真は1956年春
プレスリーが "HEART BREAK HOTEL" で世に現れた頃
そんな旋風どこ吹く風
わたしは庭で、花のついた枝を振り回し
心配性の母のお陰で
しゃがむこともできぬほどに重ね着をしているが
どろんこ遊び用の泥を
バケツにたくさん準備してもらい
仕合わせだ
父が撮ってくれた一葉
経堂町410番地の庭で遊ぶ2歳のわたし
この庭を思い出すのに、父と妹に手伝ってもらった
父は写真に写った姿から思い出していた
妹はちがった
「頭で思い出そうとすると
あまりよくわからないんだけど
小さい時みたいに
しゃがんで庭にいるつもりになって思い出すと
鬼ごっこの時には
あそこに入ると木瓜(ボケ)の棘があって痛かったっけ・・・
かくれんぼの時には
あのあたりに入って隠れると、沈丁花(チンチョウゲ)の匂いがした
そういうふうにすこしずつ
音や匂いが体に甦ってきた・・・」
禁断の香り
二人の妹と近所の友だちを集め
醤油や味醂の一升瓶の木の運送用ケースを
いくつもいくつも机代わりに並べ
学校ごっこや跳び箱を作ったりしてよく遊んだ
かくれんぼをしていたある日
わたしが隠れた櫻の根方は
少し土が盛り上がっていて
薄暗くひんやりし
地表には苔がたくさん生えている
方向違いをさがしている鬼の声を聞きながら
退屈したわたしは
落ちていた枝で何気なく足下の土を掘った
いきなり、むわっと漂ってきた不思議のにおい
いまにして想えば
いのちを生み出す土の生理の匂いだったと思う
小学校低学年のわたしには
なにかうしろめたいような
恥ずかしいような気持ちで、いたたまれなくなり
「かくれんぼ、もう、やめよ〜」と言いながら
根方から飛び出し
「あ、み〜っけ!」という鬼の声を背に
夢中で家に駆け込んだ
それからは
櫻の根方は苔で滑って危ないから
絶対に近づいちゃだめ、と脅かし
誰にも近寄らせなかった
わたしはひとりになると根方にしゃがんで
禁断の香りにくらくらしてした
赤松の隠れ家
いまは、立入禁止になってしまった
近所の大手生命保険会社私有の庭も
わたしの遊び場だった
ゆったりと幾本も植えられていた黒松の中でも
均整のとれた巻き貝のような姿の一本が好きだった
らせんの様になった太い根に腰を掛けると
外からは姿が見えなくなった
学校から帰ると、妹や病を得ていた祖父との散歩を兼ね
ほとんど毎日御庭通い
わたしの赤松の隠れ家に入り
木の周りの芝生に生えた文字摺り草をさがしたり
風が松葉の間を抜けていく音や香りに飽きなかった
図鑑でなく五感
限られた世界で遊んでいた毎日だった
どの木にも名前が書いてあるわけでもなかったから
わたしは、木に図鑑からではなく、五感から親しんでいった
インターネットにできること
今日、インターネットのお陰でわたしはいながらにして
様々なひとに会い、情報を得ることができるようになった
香りに興味を持つひとも増え
テレビや雑誌は食との出会いで溢れている
目、耳、鼻、口、どの穴をも
情報は休む間もなく刺激し、侵入し
戸惑いながらもイイトコドリをしている
首から上だけの感覚を愉しむ生き物になりつつあるかもしれない
なりたくない、と思った
インターネットを利用して
インターネットにできないことをしてみよう
そう考えて、触ることからはじめよう」のサイトを開いた
インターネットにできないこと
それはじかに触ること
じかにひとに、ものに触れ、体で感じること
その感触を愉しむこと
子どもの頃に作った泥饅頭の湿土のペタペタ感
ままごと用につぶしたアオキやヤツデの実のそれぞれのにおい
時間を知らせたアブラゼミ、カナカナ、ヒグラシの鳴き声
いくつも蜜を吸っては捨てたサツキの萼のベトベト感
おとなになるにつれて
地面からも空からも遠い生活をするようになった
わたしはあの日の愉しみを
毎日の生活の中でずっと味わっていきたい
そしてよりおおくのひとと
この愉しみをわかちあいたいと願っている
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